JARECO-Eyecommunication

シアトルホームステイプログラム2024
参加報告1(JARECOスタッフ 沖野元)

【目的】米国の不動産エージェントの自宅にホームステイして米国不動産取引とエージェントの働き方から学ぶ
【日程】2024年7月12日~18日(前半12日~15日までホームステイ、後半15日~17日はレセプション、グループディナー、ホテル泊、自由行動、18日帰国)

1日目 シアトルキングカウンティリアルター協会でのレクチャー及びホストとの顔合せ
 シアトル到着後はシアトル・タコマ空港から迎えに来てくれたマーク北林さんご夫妻の車でシアトルキングカウンティリアルター協会(SKCR)のオフィスに直行し、そこでマークさんによるシアトル不動産市場等を含めたホームステイプログラムのオリエンテーションが行われた。オリエンテーションはNARの紹介から始まった。NARには150万人の会員がいて、ワシントン州リアルター協会には22000人、SKCRはワシントン州最大で6000人の会員がいるとのこと。マークさんによるとワシントン州、SKCR共に会員数は減少しており、その理由として「リアルターは6人に1人が6ヶ月生き残ることができないと言われている」ということが主な要因であるとのこと。米国の不動産業は日本と違って多くの場合、会社員の固定給型ではなく、独立自営のフルコミッション型なので稼げないと退場していくというのはわかる。競争もあるだろうし非常に厳しい世界だと感じた。その後、SKCRの組織について解説があり役員の任期は全員が1年で、かつ全員がボランティアとのこと。任期が短いのは癒着ができないような仕組みとして優れているが、人数が多いからできるということもある。MLSの簡単な解説もあり最も印象に残っているのが「契約書が州で統一されている」ということだった。これだとリアルターも顧客も安心で、取引がスムーズに行われるかと思う。オリエンテーションではシアトルの紹介もあり、シアトルは日本から一番近いアメリカ本土とのこと。また、シアトルではIT企業が多く、第2のシリコンバレーと呼ばれているとのこと。気候も穏やかで自然が多い。確かに車で移動中の際にそれは何度も感じたことで、どこを見ても緑が見える。中心部のダウンタウンでも計画的に植栽が植えられていて美しい。この時期の気候は過ごしやすいと言われていたので期待した。確かに日本のような湿気はない。ただし日差しは日本以上に強く感じて暑かった。夏の日没は21時頃ということで、実際その時間まで外は明るく、人々は活動していた。冬は15時過ぎから暗くなり、シアトルの冬は長いという。シアトルには西海岸最大の軍事拠点もあり、10万人規模の軍人とその家族が滞在しており、彼らは3年くらいで動くため、家を購入するのではなく賃貸する。したがって軍人向けの不動産投資(賃貸)ビジネスが成立するということになる。続いてマーケットのレクチャーがあった。全米既存住宅の2024年5月のセールスは411万件、在庫は3.7ヶ月、中位価格帯は419,300ドルとのこと。在庫が4ヶ月以内であれば売り手市場ということなので、現在は売り手市場ということになる。戸建中位決済価格を見ると、このエリアではベルビューが最も高いことがわかる。マークさんによるとベルビューは近年人気が出ているとのこと。次に戸建販売価格VS決済価格を見ると、ほぼ売り出し価格で売れていることがわかる。在庫数で見るとシアトルは在庫がなく売り手市場ということがわかる。




マークさんによるオリエンテーションが終わって軽めのランチ後に各ホストが会場に来てそれぞれが分かれて行動することになった。私のホストはCLタンさんで、握手を交わした後すぐにタンさんの車で彼のオフィスに向かった。オフィスと言っても個人で構えたものではなく、ブローカーが借りている部分の一部を又借りしている形だった。言わばエージェント向けのレンタルオフィスという仕様。このオフィスはショッピングセンターの中にあり顧客にとって来社しやすい上、エージェントにとっても良い立地であると思った。ブローカーはシアトルで歴史のあるJohn l Scottで、良いエージェントを確保する意味もあって利便性の高い立地を選んだのだろう。オフィス内には受付があり、会議室がいくつかあり、エージェントの借りている個室ブースがいくつかあり、フリースアドレスペースがあり、共同のキッチンやトイレがある。ちょうど夏休みを取ったエージェントが多く、室内は閑散としていた。タンさんのオフィスはその一角で個室になっており、およそ6帖ほどの広さに机がいくつか並べられていた。彼のアシスタントも夏休みとのこと。入って正面には緑のシートが貼って有り、両側にライトが設置されていた。彼はそこでYouTube動画を撮影するという。動画撮影には最適だと思った。タンさんはYouTubeでの発信に力を入れており中国語でシアトルのマーケットや売出し物件を紹介しており、チャンネル登録者は4千人を超えている。カメラはなかったが、ソニーのZV-E10に広角レンズを取り付けたものを使っているとのこと。このカメラは偶然にも私が持っているものと同じだった。トロフィーがいくつか飾って有り、よく見るとトップ1%に与えられるもので優秀なエージェントであることがわかった。チラシやDMも見せてもらった。こうしたものはブローカーを通して発注しているようだ。慣れたブローカーに頼むのは楽だし早いだろうと思う。ブローカーの役目はエージェントの活動をサポートすることで、孤独になりがちなエージェントを支えるためにこのようなオフィスを設けているのはすばらしいと思った。


2日目 オープンハウスに同行 開発中の現場の見学
 この日はタンさんがセラーズエージェントとして売りに出しているコンドミニアム物件のオープンハウスに同行した。オープンハウス用のA看板をいくつかの箇所に置き、少し遅れて着くとすでに客と他のエージェントが玄関前で待っていた。鍵の入ったロックボックスはなんと玄関前のベンチに設置されていた。このコンドミニアムはオートロックのためエントランスドアに「オープンハウスにご来場の方はこちらにお電話ください」と書かれたメッセージにタンさんの携帯電話番号を示した紙を貼って中に入った。5階の部屋に到着するとすぐに内見が始まった。

エージェントと客が内見している間に別の客が内見に来て、かなり注目された物件であることがわかった。実際、2LDKのコンパクトな物件で日当たりが良く、目の前は緑が広がっていて今後建物が建つことがない。駐車場は2台付いていて、建物に隣接する棟となっており居住棟の2階または3階から渡り廊下で行くことができる。住居棟の出入口はオートロックになっていて安全性も確保されている。駐車場は屋根の付いているところと屋根のないところがあり、やはり雨や暑さをしのげる屋根の付いているところが人気とのこと。物件は歩いてスーパーなどに行ける好立地ということもあってか、来場したのはほぼ高齢の客ばかり。日本でも同様だが年を取ると便利な場所でかつコンパクトで段差のないコンドミニアムが良いということになるらしい。話を聴いているとどの客も興味を持っている様子で、間違いなくいくつかのオファーが入るだろうと思った。室内はオーナーのものとステージング業者の家具備品がミックスされたセンスの良い飾り付けでテンションの上がるものだった。ここをステージングした業者は間違いなくベテランだろう。オーナーのソファやベッドを活かしたステージングはすばらしいものだった。次から次へと客が内見に来た。最終的に合計で10人が来場したとのこと。オープンハウスは13時に始まり16時に終わった。日本での同様なオープンハウスを考えると短いと思うがタンさんによるとこれが普通だという。今回はエージェントからの来場の事前連絡もいくつかあり、事前のオファーも1件入っていたようだ。4名のエージェントがお客を連れてきたほか、同じコンドミニアムの人たちも何組か来場した。エージェントはオープンハウスに顧客を連れてきた際に入口に名刺を置いていく。タンさんは飛び込みで来た客に対して受付で名前や住所を聴くことはしないという。ただ、こちらの連絡先の書かれた物件チラシを渡していた。人気の物件ならではのやり方だと思う。オープンハウスが終わってA看板を片付け、部屋に戻るとオーナー家族が来ていた。結果をいち早く知りたかったようだ。台湾人の3人家族だった。タンさんとの会話は中国語と英語の混ざったもので、私はよく聞き取れなかった。見ていると言葉ができるのは強いと思った。オーナーは最初タンさんのYouTubeを見て連絡をくれたという。タンさんは中国語でYouTubeを撮り発信している。今シアトルに注目する中国人が多いという。今回のオープンハウスではお客の感触も良いからオーナーも喜んでいるようだった。結局、その日の夜までに3件の条件の良いオファーが入り、翌日に予定していたオープンハウスは中止となった。これも日本ではあまり見られないことだが、新聞折り込みチラシではなくネットでオープンハウスを告知しているので、中止もネットでできるということだった。オープンハウスの途中の客が途切れた際にタンさんはご自身のMacbookでMLSを見せてくれた。MLSはエージェントにとって使い勝手がとてもよくできていると思った。MLS上での内見の数などをオーナーに連絡するメールもできるようになっていたり、他のエージェントからの連絡も取れるようになっている。オープンハウス以外でもどのエージェントが内見したかがわかる上エージェントからのフィードバックも確認できる。統一された契約書もある。日本がこれに追いつくにはあとどれだけかかるのかと思った。また、彼のiPhoneのアプリも見せてもらった。いちいちパソコンを開かなくてもアプリで物件の状況がわかるようになっていた。鍵を保管するロックボックスもMLSやアプリと連動しており非常に使い勝手が良い。エージェントにとってだけではなく消費者にとっても内見がスムーズにいくことはメリットであると思った。ロックボックスの存在は日本でも広く知られているのにどうして入ってこないのか不思議だったが、おそらくロックボックスが最も有効な効果を発揮するのはMLSと連動しているからで、MLSよりも大きく機能が劣る日本のレインズでは意味がないということかと思う。




オープンハウスの後は開発中の3階建て戸建の現場に連れていってくれた。一部建築中だが完成したものもあり販売済みのものもある。これらは3階まですべて階段のみで当然若い人向けということになる。幹線道路も横を走っており、窓を開けると車の音がかなりする。ただ、窓を閉めると車の音は小さくなる。きっとサッシが良いのだろう。エアコンの付いている家とそうでない家があるが、おおむね付いていた。やはり夏はそれなりに暑くなるシアトルにエアコンは必須だと思う。私がオーナーなら最初から付けて売りに出す。これらの物件は平均して1.5ミリオンという高額なもので、立地や建物を見てもそれほど価値があるとは思えないからシアトルの不動産はやはり過熱気味なのだろう。
タンさんには終始テスラのモデル3で案内してもらったがとても良い車だとわかった。ダッシュボードには大きなタブレット端末が設置されておりナビはテスラ専用、iPhoneとも連動して電話がかかってきたらタブレットの方でも話ができる。自宅の充電器で充電すればしばらくは走る。走りは若干硬いがシャープだ。スタイルはいい。地図も大きくナビは的確だ。タンさんのテスラはオートクルーズが付いていないタイプだから安いとのこと。またこれは日本車にも搭載されているが、バックする際にタブレット端末に背後の画面が映ってバックしやすいのも良かった。路上では他の車もタブレット上に表示される。調べるとテスラには8個のカメラが付いており周辺の車も認知できるようだ。



3日目 ホームインスペクションの見学と他のエージェントのオープンハウス見学
 午前はまずホームインスペクションの見学に行った。戸建の現場に着くとすでにインスペクターがインスペクションを始めており挨拶を交わした。結構年配の人だった。驚いたのはかなり細かいところまでチェックしていることだった。例えば各コンセントが使用できるか、水道の不具合はないか、ドアの建付けは問題ないか、洗濯機と乾燥機も回してチェックしていた。私も日本でホームインスペクションを見たことがあるが、屋根裏と床下へもぐったのは覚えているがそこまで細かくやっていたか記憶にない。また隣接する駐車場の屋根に登ってチェックしていた。屋根裏は見せてもらったが断熱材が直に敷いてあった。日本なら袋に入れて敷くところだ。床下にももぐっていた。一酸化炭素の分量を量るものをコンセントに挿したりもしていた。非常に人の良さそうな真面目なインスペクターで好印象を持った。当日はトイレの水漏れやドアの建付け、丁番の不具合も発見していた。
 その後はホームデポに行った。DIY文化があるアメリカではホームセンターも大きい。ホームデポで扱っている建材も大きいものが多かった。工具も多種類あった。その後古い戸建のオープンハウスを2件見た。いずれも1ミリオン越えとのことだったがとてもそんな物件には見えなかったが、内見者はそれなりに来ていた。
 その日は夕食後にタンさんとじっくりと話した。タンさんに「どうやったらトップ1%のエージェントになれるのか」と聞いた。タンさん曰く自分も最初からできたわけではない、トップの真似をすること、モデリングすること、ニッチを見つけること、コーチングを受けることなどと話してくれた。日本に不動産投資で興味を持つアメリカ人は多いとも。またタンさんはチームを作ることの重要性について語った。タンさんには現在3人のアシスタントがいていずれももとはタンさんのクライアントだったという。契約や販売促進のサポートをしてもらっているようだ。アシスタントを雇うことで自分はより重要な稼ぐ仕事に集中できる。またタンさんは年に1度すべてのクライアントを招待してパーティーを行うという。そうしたアナログなイベントによるつながりを通して不動産の話が舞い込んでくるようだ。



4日目 顧客に送る物件のビデオ撮影 レセプション&食事会
 タンさんが顧客のために物件の動画を撮ると言うので付いて行った。物件は島にありくねくねした道を通った突き当りにあった。坂に建っているためか地階と2階があり三層になっていた。タンさんはスマートフォンで動画を撮りチャットで顧客に送っていた。確かに容易に見に来られない客のために動画を撮って送るのもありかと思った。
その日は夕方からSKCRによるレセプションが催される予定になっていた。レセプション会場はWindermereのオフィスのバルコニースペース。そこにはすでにSKCRの関係者がいて飲み物や食べ物が用意されていた。レセプションではホストと一緒にスピーチをすることになった。タンさんはそつのないスピーチをして、私は用意していた短めのスピーチをした。
 車の中でタンさんからステージングに関する興味深い話を聴いた。ステージングは売主が持つ場合もあればセラーズエージェントが持つ場合もあるとのこと。そしてタンさんはセラーズエージェントとしてステージングの費用を持っていると話した。その代わりコミッションは3%もらっているとのこと。他のエージェントはステージングを売主負担にするがコミッションは2%~2.5%らしい。タンさんは自分でリスクを取ってステージング費用を持っていると話した。その日タンさんは車に乗っている間ずっと顧客や保険会社と話していた。契約予定の買主の保険が下りないというトラブルがあったらしい。災害の多い米国では保険が必須だが保険会社も審査する上保険料も高額だ。対策としてもっと安い保険に変更するらしい。




5日目 自由行動 ジェイソンさん スタバ本社、ワシントン大学図書館、食事会、夜景
 自由行動のこの日はぜひお会いしたいと思っていたシアトルで不動産エージェントとして活躍するジェイソン渡部さんと会うことができた。ジェイソンさんは真夏のような格好で気さくでパワフルだった。ジェイソンさんにはNAR日本大使時代の話やJARECO創設についての貴重な話を聴くことができた。話の内容もさることながらジェイソンさんの爽快な笑顔とパワフルで快活な話し方が最も印象に残っており、長く不動産エージェントとして信頼を得て活躍するのも当然だと納得した。マークさんもそうだが米国で活躍する日本人エージェントは皆パワフルで話すことにブレがない。
その後ワシントン大学で図書館を見学し、近くのショッピングセンター「ユニバーシティビレッジ」でステージング用小物を見ていた時にマークさんが興味深い話をされた。曰くステージングはまず片付け業だと。片付けないとステージングはない。そして片付けには精神的なものがありある意味カウンセリング的な要素をエージェントは求められる、と。ポイントはとにかく片付けを始めてもらうことだという。少しずつでも始めれば片付いていく。目に見えることが重要だ。当然だが片付けられないと売買には至らないということだ。マークさんはホームステージングの資格も取得しているとのこと。それともう一つマークさんが印象的な話をした。エージェントはプロフェッショナルであるからにはドレスコードが必要だと。やはり仕事を受ける時の第一印象をアップさせるには信頼性の高い服装をする必要があるということだ。ネクタイをする必要はないが少なくともビジネスカジュアルであるべきだと。



全体の感想
 今回のプログラムで感じたことは、本で読んだりテレビで見たりするよりも現地に来て自分の目で見ることの重要性だ。理屈ばかり知るよりも実際に見たり話を聴いたりすることは非常に価値がある上刺激を受けた。これが単純な研修旅行ではなく、エージェント宅へのホームステイであったことでエージェントの働き方を間近で見ることができたのは通常は得られないほどの大きな学びとホストとの強い絆のようなものも得られて、得難い経験になった。
米国不動産業はIT化、DX化が進んでおり、エージェントが働きやすい環境がある。MLSにより安全でスピーディーな取引ができることなど、日本で容易に真似できないこともあるが、ホームページに掲載する写真のクオリティやSNSでの発信、顧客との密なコミュニケーションなどは日本でも重要であり、できることからやればいい。また英語を一番心配していたが案外何とかなることがわかった。最初は聞き取れず話せなかったこともホスト宅で英語のシャワーを浴びていると段々と聞き取れるようになり話せるようになるから不思議だ。あの体験を一度でもすれば英語を怖がる必要はないとわかる。間違えてもいいんだ、と。
この度のプログラムはマーク北林さんご夫妻やSKCR関係者、ホスト、JARECO関係者など多くの人の協力で成り立っている。シアトルホームステイプログラムを終えて、関係者の皆さんに感謝したい。このプログラムは他に類のない体験ができるもので、日本の不動産業界とシアトルの不動産業界の交流促進や相互理解のみならず、日本での不動産業の進展のために大いに役立つものであり、今後も続いていってほしい。