米国企業研究(First American Corporation)
First American Corporationは、不動産および住宅ローン業界にタイトル保険および決済サービスを提供するアメリカの金融サービス会社です。
この記事ではFirst American Corporationの創業期から現在までの事業の変遷を時代背景も含めて振り返ってみましょう。
カリフォルニア州オレンジ郡のタイトル会社として創業 (1889-1960)
地域のタイトル会社として
現在のFirst American Corporationの源流となる会社は1889年カリフォルニア州オレンジ郡で創業されました。(会社名:Orange County Title Company)同社はオレンジ郡内で発生する登記の問題を解決するサービス(タイトル業務)を開始し、M&Aにより同業社2社を合併させ、以後70年に渡りオレンジ郡の発展と歩調を合わせる形で発展した。
時代背景
以下の表は国勢調査を元に作成したオレンジ郡の人口推移の表ですが、オレンジ郡の人口は1800年代後半から1960年代まで10年平均130%の割合で増加しています。同社の発展はまさにオレンジ郡の発展とともにあったと言えそうです。
新たな顧客を求めてカリフォルニア州にサービス範囲を拡大(1960-1968)
サービス範囲拡大
1960年代になるとオレンジ郡の人口増加率が鈍化します。Orange County Title Companyは新たな顧客を求めてカリフォルニア州南部にサービス提供範囲を拡大します。サービス提供範囲拡大に伴って社名も1960年に社名も変更しています(社名:First American Title Insurance and Trust Company)。会社名から事業の主軸をタイトル業務からタイトル保険及び信託業務に移したことが伺えます。
時代背景
ペンシルベニア州最高裁判所で行われたワトソン対ミュアヘッド事件(*1)をきっかけとして、ペンシルベニア州で1874年にタイトル保険の設立を許可する法律が可決されました。この法律を根拠にタイトル保険ビジネスが普及します。2年後の1876年には同州最大の都市フィラデルフィアにて米国初のタイトル保険会社が設立されました。First American Title Insurance and Trust Companyのタイトル保険業界への進出もこの流れを受けてのものと分析されます。
(*1) 被告ミュアヘッドが、留置権があることを知りながら不動産を原告ワトソンに売却し、ワトソンが損害を被ったことの責任が争われた事件
サービス提供地域の拡大と事業多角化(1968-2000)
M&Aによる全国展開
カリフォルニア州を始め4つの州でサービス提供を行うことになった、First American Title Insurance and Trust Companyは1968年に社名を変更(社名:First American Financial Corporation)、M&Aにより既存のタイトル会社を買収することでサービス提供地域拡大を図りながら事業の多角化を志向します。社名から金融業を事業に主軸に置いていることが伺えます。
事業の多角化
First American Financial Corporationは事業拡大を図りますが、後述する時代背景もあり、不動産取引に依存しない事業の開発に注力するようになります。特に注力したのが「情報サービス」です。
- 1984年に住宅保証事業を立ち上げ
- 1985年にローンの借り手が固定資産税を支払っているかどうかを監視するための不動産税サービスを立ち上げ
- 1986年に不動産譲渡にかかる事業情報会社の買収プログラムを開始
- 1990年台には不動産ブームによらない収益の柱として、情報提供サービスの拡充に舵を切る
- 洪水認証会社を買収し、不動産に洪水保険をかける必要があるかどうかを調査するサービスを提供
- 1993年から収益の大部分を占めるタイトル保険事業の他に住宅ローンの信用報告事業の構築に積極的に参画
- 住宅ローン調査会社を4社買収し、First Americanは米国最大の住宅ローン信用報告サービスになった
- 1998年に住宅業界を超えて消費者情報セグメントを立ち上げ、中古車ディーラーへの信用報告、雇用主への雇用前スクリーニングサービスを立ち上げた
ハイテク技術による業務効率化
First American Financial Corporationの収益の中心はタイトル保険事業でしたが、同事業は件数が大量であるものの、利益率の低い事業だったため、生産コストを削減する目的でハイテク(当時は珍しかった電子メール)を導入し、業務効率化を図りました。
グローバル展開
1990年代にFirst American Financial Corporationはカナダに事務所を開設し、カナダでもタイトル保険業務を行うようになりました。米国ではタイトル保険は一般的だったものの、カナダや英国を含む多くの国ではタイトル保険の契約件数は年間100件未満でした。そのため、同社は特典パッケージ(米国の外国不動産購入者を対象とした標準化されたタイトル保険のポリシーの導入)を販売することで米国外市場を開拓した。その結果、米国外の国では不動産の譲渡を迅速かつ安価に行うことができるようになり、米国外でもタイトル保険サービスを展開することに成功しました。その後カナダの他に、メキシコ、韓国、香港、オーストラリア、イギリスでタイトル保険事業を展開しました。
時代背景
60年代後半の米国はベトナムへの軍事介入がエスカレートしたため、軍事支出の増加が生じ、インフレ率が緩やかに加速します。このインフレの加速は国際貿易における米国の優越性を着実に衰えさせており、第二次世界大戦の終戦以降続いていた米国の世界経済、地政学、商業、技術および文化的な優越性は徐々に失われていきます。
そのような米国に打撃を与えたのが1970年に二度発生したオイルショックでした。オイルショックによって物価が高騰し、物価高に呼応するように銀行金利も上昇することで庶民はローンが借りづらくなりました。以下は米国の住宅販売戸数の推移を表したものですが、2回目のオイルショック後の1980年から販売戸数が落ち込んでいます。First American Financial Corporationはこのような不動産市場が落ち込んだ環境下で生き残りをかけて「データビジネス」「グローバル展開」に舵を切ったものと思われます。
ビッグデータカンパニーとして(2000 - 現在)
2000年付近の不動産市場の活性化を受けて、First American Financial Corporationは社名を更に変更(社名:First American Corporation)、タイトル保険を始めとする保険ビジネスを主軸としながら、ビッグデータを活用した情報ビジネスを展開しています。
現在の同社の事業領域は以下の通りです。
- タイトル保険:住宅の売買主、不動産業者などに対して所有権保険の保護と専門的なサービスを提供
- 専門保険
- 住宅ローン情報提供サービス
- 不動産情報提供サービス
- リスク軽減のビジネスソリューション
その後、2010年にFirst American Corporation は2つの会社に分割されました。
1社は生命保険及び決済サービスを提供するFirst American Financial Corporation、もう1社は不動産情報及び分析業務を担うCorelogicです。
まとめ
First Americanは外部環境及び同社の成長ステージに合わせて様々な形態でビジネスを展開してきました。最初はオレンジ郡の地域密着型タイトル会社としてオレンジ郡の発展とともに顧客基盤を固めていきました。オレンジ郡の発展の鈍化とともにカリフォルニア州南部に進出、当時普及し始めた「タイトル保険」を取り入れたサービスを展開します。米国の最盛期である黄金の60年代にはM&Aによる拡大戦略により全米にサービス範囲を拡大、70年代から2000年代の不動産停滞期には蓄積した情報を活用したデータサービスに進出していきました。